


ピエモンテ産ヘーゼルナッツ・ガイスト(アルコール分42%)
感ずる
このヘーゼルナッツの蒸留酒に口を近づけた瞬間、迷いは消える。ありふれたナッツの酒ではない。最初の香りから、複雑で繊細な調べが広がる。焙りたてのヘーゼルナッツに、暗く艶やかなショコラの響き。そこへ、夏の雨上がりの木立を思わせる青い気配が重なる。さらに奥底には、苔や湿った森の土、ほろ苦い黒いショコラのような影が潜み、深みと優雅さ、多層の世界を予感させる。
ひと口含めば、その香りが示したとおりの景色が現れる。舌の上を静かに滑る、絹のような、ほとんどクリームめいた感触。甘さを前に出さぬまま、上質なヌガーを思わせる濃やかなナッツの余韻がほどけていく。芯のある焙煎香が骨格を与え、ほのかな苦みが遊ぶように温かみのあるカラメルナッツの調べを引き立てる。やがて訪れるのは、控えめで柔らかな温もり――焙りたてのナッツやコーヒー、ダークショコラの香りに包まれた、安らぎと満ち足りた時間。
識る
この特別な蒸留酒の核にあるのは、「トンダ・ジェンティーレ・デッレ・ランゲ」という名を持つ、ピエモンテの伝説的な品種。アルバを囲む丘陵地――穏やかな気候、柔らかな風、石灰とミネラルを含む土壌――その恵みを受け、何世代にもわたり受け継がれた農家の手が、このナッツに唯一無二の香味を与えてきた。
品質の鍵は焙煎にある。数十秒の差が、香りを生かすか、損なうかを決める。私たちは注文を受けてから小さな単位で焙煎する。熱と時間を読む眼、刹那を逃さぬ集中、それが必要だ。深い焙煎香と生き生きとした香りの均衡――その一点を見極めるのは、経験と感覚だけ。
蒸留後は急がぬ。静かな熟成の間に、香りは調和を深め、輪郭を整える。そこにあるのは、澄み切った香味と揺るぎない精度だけ。
味わう
この蒸留酒は、飲むという行為を、静かな歓びの儀へと変える。小ぶりすぎぬ丸みのあるグラスで、室温に近い温度で――食事を終え、言葉がゆるやかに流れるときに。
組み合わせれば、多彩な顔を見せる。アーモンドやヘーゼルナッツを使った焼き菓子、まだ温かいショコラ・フォンダン、または上質なバニラアイスにカラメリゼしたナッツを添えて。そしてカクテルでは、クラシックな「ブランデー・アレキサンダー」をこの蒸留酒で優雅に置き換え、コニャック、生クリーム、ひとつまみのナツメグと溶け合わせると、ほろ苦く上品な一杯が生まれる。
やがて、ピエモンテの丘陵が思い浮かぶだろう。ナッツ畑と葡萄畑が続く柔らかな稜線。古くからの手仕事、温かなもてなし、本物の技から生まれる喜び。この一杯は、ただのナッツを語らない。人と、情熱と、真摯な献身を語る。
アロマ図書館 No. 510
酒精度:42%vol
熟成可能期間:1~3年(優しい蒸留による豊かな油分のためやや短め)
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